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神戸地方裁判所 昭和48年(行ウ)37号 判決

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル ほか四名

被告 法務大臣 ほか一名

訴訟代理人 細井淳久 中嶋寅雄 浅田安治 ほか一名

主文

一  原告プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワルらの本件各訴はいずれも却下する。

二  原告ゼー・エヌ・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルらの各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告法務大臣が、原告プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワルに対し、右原告らの出入国管理令第四九条第一項に基づいてした異議の申出を棄却する旨の昭和四六年五月八日付の各裁決はいずれもこれを取消す。

2  被告神戸入国管理事務所主任審査官が、原告プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワルに対し、昭和四六年五月八日付でした各退去強制令書発付処分はいずれもこれを取消す。

3  被告法務大臣が、原告ゼー・エヌ・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し、昭和四八年一〇月二六日付でした各在留期間更新不許可処分はいずれもこれを取消す。

4  被告法務大臣が、原告ゼー・エヌ・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し、右原告らの出入国管理令第四九条第一項に基づいてした異議の申出を棄却する旨の昭和四九年七月二九日付の各裁決はいずれもこれを取消す。

5  被告神戸入国管理事務所主任審査官が、原告ゼー・エヌ・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルに対し、昭和四九年八月一二日付でした各退去強制令書発付処分はいずれもこれを取消す。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  原告プリテイ・ジヤスワル、同プリムラタ・ジヤスワル、同プラテイバ・ジヤスワルについて

(一) 主位的に主文同旨の判決

(二) 予備的に、「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決

2  原告ゼー・エヌ・ジヤスワル、同ラダ・ラニ・ジヤスワルについて

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分に至る経緯

(一) 原告らは、いずれもイギリス国籍を有し、原告ゼー・エヌ・ジヤスワル(以下、原告ゼー・エヌという。)は大正四年(一九一五年)九月一日、同原告の妻である原告ラダ・ラニ・ジヤスワル(以下原告ラダ・ラニという。)は昭和二年(一九二七年)一二月八日にいずれもインドで出生した。原告プリテイ・ジヤスワル(以下、原告プリテイという。)は昭和二六年(一九五一年)一〇月一五日、原告プリムラタ・ジヤスワル(以下、原告プリムラタという。)は昭和三〇年(一九五五年)七月二六日にいずれも神戸市で、原告プラテイバ・ジヤスワル(以下、原告プラテイバという。)は昭和三四年(一九五九年)四月一七日ホンコンで、いずれも原告ゼー・エヌを父とし、原告ラダ・ラニを母として出生した。

(二) 原告ゼー・エヌは、昭和四三年八月一四日、出入国管理令(以下、令という。)四条一項一六号、特定在留資格及びその在留期間を定める省令(以下、省令という。)一項三号に該当する者としての資格を与えられて本邦に入国し、昭和四四年三月二四日在留期間を九〇日に短縮して在留期間の更新を受け、その後昭和四五年三月二八日ホンコンへ出国した。ついで、同原告は、昭和四六年一二月七日入国目的を「裁判所出頭のため」として前記と同一の在留資格を認定され在留期間六〇日を決定されて本邦へ入国し、在留期間更新をうけて神戸市に居住していたのであるが、昭和四八年九月一七日被告法務大臣に対し在留期間更新の申請をしたところ、昭和四八年一〇月二六日付で在留期間更新不許可の通知を受けた。そして、神戸入国管理事務所(以下、神戸入管という。)入国審査官から令二四条四号ロに該当すると認定され、その旨の通知を受けた。そこで同原告は、神戸入管特別審理官に対し口頭審理を請求したところ、口頭審理の結果、右認定に誤りがない旨判定通知を受けたので、昭和四九年六月一〇日被告法務大臣に対し令四九条に基づく異議の申出をしたが、同年七月二九日異議の申出は理由がない旨の裁決がなされ、同年八月一二日被告神戸入管主任審査官から退去強制令書が発付された。

(三) 原告ラダ・ラニは、昭和四三年四月三日在留期間六〇日と決定され、令四条一項四号に該当する者としての資格を与えられて本邦に入国し、ついで昭和四五年三月九日韓国へ出国したが、同月一二日再び本邦に入国し、更に、同年五月一一日韓国に出国して翌一二日改めて入国目的を「裁判所出頭のため」として令四条一項一六号省令一項三号に該当する者としての在留資格を与えられ、在留期間一八〇日と決定されて本邦に入国した。同原告は、その後在留期間の更新を受けて神戸市に居住していたのであるが、昭和四八年九月一七日被告法務大臣に対して在留期間更新の申請をしたところ、同年一〇月二六日付で在留期間更新不許可の通知を受けた。そこで同原告は、前記の原告ゼー・エヌと同一の手続を経たのであるが、昭和四九年七月二九日被告法務大臣から令四九条に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決がなされ、同年八月一二日被告神戸入管主任審査官から退去強制令書が発付された。

(四) 原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバは、いずれも昭和四三年八月一四日、在留期間一八〇日、在留資格四-一-一六-三の許可を受けて原告ゼー・エヌと共に本邦に入国し、昭和四四年三月二四日在留期間を九〇日に短縮されて期間更新を受け、昭和四五年三月一五日ホンコンへ出国した。ついで、右原告ら三名は、いずれも同年七月三〇日在留期間六〇日、在留資格四-一-四の許可を受けて再び本邦に入国したが、被告法務大臣に対し在留期間更新の申請をしたところ不許可とされ、同年一二月二一日神戸入管入国審査官から同年一一月二八日以降不法に残留するものと認定され、その旨の通知を受けたので、同所特別審理官に対して口頭審理を請求したけれども、右口頭審理の結果、右認定に誤りない旨判定され、その旨の通知を受けたので、直ちに被告法務大臣に対し令四九条一項に基づく異議の申出をしたが、昭和四六年五月八日異議の申出は理由がない旨の裁決がなされた。そして、同日被告神戸入管主任審査官から右原告ら三名に対し退去強制令書が発付された。

2  原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニについて

原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニに対する各在留期間更新不許可処分並びに本件各裁決、右裁決に基づく各退去強制令書発付処分は、いずれも次の事由により違法があるので取消されるべきである。

(一) 本件各在留期間更新不許可処分ならびに本件各裁決は、憲法三二条に違反するのみならず、何ら正当な理由が存しないものであつて、裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があり、右各裁決に基づく本件各退去強制令書発付処分は、その違法を承継するものである。

(イ) 憲法三二条違反の点について

原告ゼー・エヌは、昭和一四年頃から本邦に入国在留して貿易事業を営んで富を築き、昭和二二年七月一八日には大阪市東区道修町一丁目六番一宅地二八三・三三平方メートル、同地上の鉄筋コンクリート造陸屋根地下付三階建店舗(インドビル)及び付属建物の木造瓦葺平家建物置等を買い受け、さらに昭和二五年には神戸市生田区山本通三丁目一番の一宅地一七六・五六平方メートル、同地上の木造瓦葺二階建居宅を買い受け、また、原告ラダ・ラニは、同市同区北野町四丁目一〇七番二宅地四三二・八五平方メートルを買い受けて、それぞれ所有するに至つた。その後、昭和三一年四月七日原告らは、いずれもインドへ向けて本邦から出国し、以後原告ゼー・エヌは主としてホンコンで貿易事業を営んでいた。ところが、昭和四二年九月二一日アマルナス・セツトは、原告ゼー・エヌ所有の前記インドビル及びその敷地について二分の一の持分権があると主張して、その確認を求める訴を大阪地方裁判所に提起した(同庁昭和四二年(ワ)第五、一九四号事件)。原告ゼー・エヌは、ホンコンにおいて右訴状を受理し調査したところ、アマルナス・セツトが原告ゼー・エヌの不在を奇貨として委任状を偽造し、前記神戸市生田区山本通の土地建物をアマルナス・セツトの経営する日印貿易株式会社に所有権移転登記をし、また、原告ラダ・ラニ所有の前記神戸市生田区北野町の土地についても、自己に持分権があると主張して、訴を提起(神戸地方裁判所昭和四二年(ワ)第一、四〇一号事件)していたことが判明した。そこで、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、右各訴訟を追行し、かつ自己の財産を保全するために本邦に入国することを決意して前記のとおり本邦へ上陸した。その後、右財産に関して原告として訴を提起したり、又は被告として訴を提起されたりした結果、本件各処分がなされた当時には、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニを当事者とする訴訟が次のとおり係属するに至つた。

(1)  大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第五、一九四号共有権確認請求事件

原告 アマルナス・セツト

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

(2)  大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第一、一四六号保存登記抹消登記手続請求事件

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

被告 アマナツ・セツト(アマルナス・セツトと同一人)

(3)  神戸地方裁判所昭和四四年(ワ)第四七四号持分払戻金請求事件

原告 アマルナツト・セツト(アマルナス・セツトと同一人)

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル他一名

(4)  大阪高等裁判所昭和四八年(ネ)第九三九号報酬支払請求控訴事件

控訴人 ゼー・エヌ・ジヤスワル

同  ラダ・ラニ・ジヤスワル

被控訴人 鈴木透

なお、現在原告ラダ・ラニを当事者とする訴訟は終了して他には、係属中の訴訟はないが、原告ゼー・エヌを当事者とする訴訟は次のとおり係属している。

(1)  大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第五、一九四号共有権確認請求事件

原告 アマルナス・セツト相続人

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

(2)  大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第一、一四六号保存登記抹消登記手続請求事件

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

被告 アマルナツ・セツト相続人

(3)  神戸地方裁判所昭和四四年(ワ)第四七四号持分払戻金請求事件

原告 アマルナツト・セツト相続人

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

同  エー・エス・ジエーン

(4)  大阪地方裁判所昭和四八年(ワ)第五、七九二号株主たる地位確認請求事件

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

同  エー・エス・ジエーン

被告 日印貿易株式会社

原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、係属中の右訴訟をいずれも訴訟代理人に委任して追行しているが、いずれの訴訟も事案が複雑で、かつ古い事実に関するものであるため、常に訴訟代理人と連絡をとらなければ事実上右訴訟の進行が困難な状況にあるのみならず、原告ゼー・エヌは、右訴訟の進行に伴い本人として尋問される予定であり、また、昭和四八年一二月五日にはエー・エス・ジエーンと日印貿易株式会社他二名間の東京地方裁判所昭和四四年(ワ)第四三号登記抹消請求事件について、昭和四九年二月八日にはエー・エス・ジエーンと法務大臣間の同庁昭和四八年(行ウ)第一〇号在留期間更新不許可処分取消請求事件について、いずれも同庁へ証人として呼出をうけていた。右原告らが一旦退去強制されれば改めて本邦に入国することは容易ではないから、右原告らの係属中の訴訟の追行に重大な支障をきたすばかりでなく、本人として、あるいは証人として裁判所に出頭する機会も妨げられる結果となるのである。したがつて、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、前記係属中の訴訟の追行のためにも、また、本人として、あるいは証人として裁判所に出頭するためにも本邦に在留する必要があるというべきであるから、在留期間更新を不許可とし退去強制を求める本件各処分は、いずれも憲法上保障された原告らの裁判を受ける権利を侵奪することになるのであつて、憲法三二条に違反するといわなければならない。

(ロ) 正当理由の不存在の点について

原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、本邦に前記不動産を所有し、前記訴訟を追行することによつて右財産を保全するため、ホンコンでの事業を整理して本邦に入国したものであるが、本邦以外には何ら財産はなく、原告らの生活の本拠は本邦にあるのであるから、本邦から退去強制させられれば、原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバら三人の子供をかかえた原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニらの生活は極めて不安定なものとなる。また、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、本邦に入国して以来善良な市民として平穏な生活を送つてきたのであり、原告ゼー・エヌにおいては昭和四六年一二月七日から、同ラダ・ラニにおいては昭和四五年五月一二日からいずれも数回にわたり在留期間更新が許可されてきているのである。したがつて、右原告らに対し、右在留期間更新を不許可として退去強制を求める本件各処分には、いずれも正当な理由を要すると解すべきである。しかるに本件各処分には何ら正当な理由が存しないのである。

(ハ) したがつて、被告法務大臣がなした原告らに対する昭和四八年一〇月二六日付在留期間更新不許可処分並びに原告らの令四九条一項に基づく異議の申出を棄却する旨の昭和四九年七月二九日付各裁決は、いずれも裁判を受ける権利を保障した憲法三二条に違反するのみならず、人道に反し社会通念上著しく妥当性を欠くものであつて、正当な理由が存しないから、被告法務大臣に認められたそれぞれの自由裁量権の範囲を逸脱し、その権限を濫用した違法があるというべく、したがつて、右各裁決に基づく被告神戸入管主任審査官の昭和四九年八月一二日付本件各退去強制令書発付処分も、また、右各裁決の瑕疵を承継した違法があるというべきであるから、本件各処分はいずれも取消されるべきである。

(ニ) 本件各退去強制令書発付処分については、憲法三一条、三三条に違反する違法がある。

原告ゼーエヌ、同ラダ・ラニは、昭和四九年八月一二日各退去強制令書により令四九条五項、五一条に基づいて収容され、同日保証金を納付して仮放免されたが、右収容が身体の自由を奪うものである点では刑事手続における逮捕勾留と実質的に同じであり、身体の自由に対して重大な拘束を課する点において変りはないというべきである。かかる権限を主任審査官に付与している令四九条五項、五一条は、憲法三一条、三三条に違反するものであるから、本件各退去強制令書発付処分は違法として取消されるべきである。

3  原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバについて

原告らは、いずれも女性であり、独立して生計を営む能力も財産もなく、原告プリムラタ、同プラテイバは、本件各処分当時未成年者であつて(その後、原告プリムラタは昭和五〇年七月二六日に成年に達している。)、両親の監護を必要とするものである。原告プリテイ、同プリムラタは、神戸市生田区中山手通三丁目所在の聖ミカエル国際学校へ通学中であつた(その後、両名共同校を卒業し、現在神戸YMCAでタイプ等の技術を修得するため準備中である。)。そして、右原告らは、本邦に入国以来数回にわたつて在留期間の更新を受け、善良な市民生活を送つてきているのであつて、今回更新を拒絶されて退去強制を求められる理由はなにひとつ存しない。右原告らが退去強制令書の発付処分を受けることは、原告らの汚点として将来結婚等あらゆる点において不利益となるものである。また、右原告らを両親から引離して本邦から退去させることは、著しく人道に反する。したがつて、被告法務大臣が右原告らに対し、同原告らの令四九条一項に基づく異議の申出をいずれも棄却した昭和四六年五月八日付本件各裁決は、裁量権の範囲を逸脱し、その権限を濫用した違法があるというべく、右各裁決に基づく被告神戸入管主任審査官の本件各退去強制令書発付処分も、また、右各裁決の瑕疵を承継した違法があるというべきであるから、本件各処分は、いずれも取消されるべきである。

二  本案前の抗弁に対する反論

原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバの本件各訴は、行政事件訴訟法一四条三項所定の出訴期間を徒過して提起されてはいるが、右徒過には次のとおり正当な理由がある。すなわち、原告らが本件各裁決及び各退去強制令書発付処分を受けた当時は、原告らは、いずれも未成年であつて、父の原告ゼー・エヌはホンコンにあつて本邦への入国を申請中であり、日本語を十分に理解できない母の原告ラダ・ラニの許で生活していた。このような事情のもとでは、右各裁決、各退去強制令書発付処分があつたことを知つて、これらに対し適切な処置をとり、取消を求める訴を提起することは不可能であつた。更に、右原告らは、右各処分後も仮放免されて仮放免の期間延長を許可されていたのであるから、訴を提起する必要性を感じなかつたとしても無理ではなく、被告らを相手にして争うことはかえつて原告らにとつて不利益となるのではないかと考えたとしても、あながち非難することはできない。したがつて、原告らの本件各訴は、本件各裁決及び各退去強制令書発付処分のあつた日から一年以上も徒過して提起されてはいるが、右徒過には同法一一四条三項但書の正当な理由があるというべきであつて、原告らの本件各訴は適法である。

三  原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバの本件各訴に対する本案前の抗弁

被告神戸入管主任審査官は、昭和四六年五月八日原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバに対し、同日被告法務大臣によつてなされた請求の趣旨一項記載の各裁決を告知し、同日各退去強制令書を発付して右原告らを神戸入管に収容したが、同日同原告らの母である原告ラダ・ラニの請求により右原告ら三名を仮放免した。その後、右原告ら三名の父である原告ゼー・エヌも同年一二月七日本邦に入国したのであるから、右原告ら三名は遅くとも同日頃には本件各裁決及び各退去強制令書発付処分があつたことを知り、直ちに取消訴訟を提起しえた筈である。しかるに、同原告らは、本件各訴を、いずれも昭和四八年一一月一五日に提起したのであるから、本件各訴は、行政事件訴訟法一四条一項、三項本文に各所定の出訴期間をいずれも経過しているものであつて不適法である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)、(二)、(三)は認める。

2  同1の(四)のうち、原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバが被告法務大臣に対し更新許可を申請したところ、被告法務大臣が不許可としたことは否認し、その余は認める。原告らは、昭和四五年一一月二八日以降については在留期間の更新を申請せずに在留期間を経過したものである。

3  同2の(一)(イ)のうち、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニが昭和三一年四月七日出国したこと、本件各処分当時及び現在原告ら主張の各訴訟が係属していること(但し、本件各処分当時の(4)の訴訟については不知。)、現在原告ラダ・ラニが当事者である訴訟が係属していないことは認め、その余は不知。本件各処分が憲法三二条に違反するとの主張は争う。

4  同2の(一)(ロ)は争う。

5  同2の(一)(ハ)は争う。

6  同2の(二)は争う。

7  同3は争う。

五  被告らの主張

1  本件各処分に至る経緯

(一) 原告らは、いずれもイギリス国籍を有する外国人であり、原告ゼー・エヌは一九一五年(大正四年)九月一日、妻の原告ラダ・ラニは一九二七年(昭和二年)一二月八日それぞれインドで出生したものであつて、いずれも今回本邦に入国する前はホンコンに在住していた。原告プリテイは一九五一年(昭和二六年)一〇月一五日、原告プリムラタは一九五五年(昭和三〇年)七月二六日それぞれ神戸市で、原告プラテイバは一九五九年(昭和三四年)四月一七日ホンコンで、いずれも原告ゼー・エヌを父とし、原告ラダ・ラニを母として出生したものであつて、今回本邦に入国する前はホンコンに在住していた。

(二)(1) 原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバは、昭和四五年七月三〇日大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から、令四条一項四号(観光客)に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定されて上陸許可を受けたうえ、本邦に上陸し、同年一一月六日被告法務大臣に対し各在留期間の更新を申請して、いずれもその最終在留期限を同月二七日までとして更新を受けた。神戸入管入国審査官は、同年一二月二一日同所入国警備官から右原告ら三名の引渡を受けて審査した結果、同原告らが令二四条四号ロに該当すると認定して同原告らにその旨通知したところ、同原告らは同所特別審理官に対して口頭審査を請求した。同所特別審理官は口頭審理の結果、右認定には誤りがないと判定して右原告らにその旨通知したが、同原告らは被告法務大臣に対し異議を申出た。被告法務大臣は、昭和四六年四月一四日右異議の申出には理由がないと裁決し、その旨を被告神戸入管主任審査官に通知し、被告神戸入管主任審査官は、同年五月八日右原告ら三名に対し右各裁決を通知すると共に、本件各退去強制令書を発付し、神戸入管入国警備官はこれに基づいて同原告らを収容したが、被告神戸入管主任審査官は原告ラダ・ラニの請求により前記原告ら三名を仮放免し、現在に至つている。

(2) 原告ゼー・エヌは昭和四六年一二月七日、原告ラダ・ラニは昭和四五年五月一二日、いずれも入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受けて本邦に入国し、いずれも大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から、令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を原告ゼー・エヌにおいて六〇日、原告ラダ・ラニにおいて一八〇日と決定されて、いずれも上陸許可を受けたうえ、本邦に上陸した。その後、原告ゼー・エヌは一〇回にわたり、原告ラダ・ラニは一二回にわたり被告法務大臣に対して在留期間の更新を申請し、いずれも、その都度その更新を受けた(その最終在留期限はいずれも昭和四八年九月二七日)。原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは昭和四八年九月一七日被告法務大臣に対して各在留期間の更新を申請したが、被告法務大臣は同年一〇月二六日右原告ら二名に対して各在留期間の更新をいずれも不許可とした。神戸入管入国審査官は、昭和四九年四月二六日同所入国警備官から右原告らの引渡を受けて審査した結果、同原告らが令二四条四号ロに該当すると認定して、その旨通知したところ、同原告らは同所特別審理官に対して口頭審理を請求した。同所特別審理官は同年六月六日口頭審理の結果、右認定に誤りがないと判定して右原告ら二名にその旨通知したところ、同原告らは被告法務大臣に対して異議を申出た。被告法務大臣は同年七月二九日右異議の申出には理由がないと裁決し、その旨を被告神戸入管主任審査官に通知し、被告神戸入管主任審査官は同年八月一二日同原告らに対して右各裁決を通知すると共に、各退去強制令書を発付し、神戸入管入国警備官はこれに基づいて同原告らを収容したが、被告神戸入管主任審査官は、原告ゼー・エヌの請求により、右原告ら二名を仮放免し、現在に至つている。

2  原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニに対する本件在留期間更新不許可処分の適法性

原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニについては、次のとおり令二一条三項所定の「在留期間更新を適当と認めるに足りる相当な理由」は何ら在しない。

(一) 本邦に在留する外国人は、所定の在留期間が満了した場合には本邦に在留し得る地位を当然に喪失すべきものであるが、令二一条の在留期間更新の制度は、その例外的措置として、その在留し得る地位を存続させて新たな利益を本邦に在留する外国人に付与するものであるから、法務大臣が在留期間の更新を許可しなくても、当該外国人の既得の権利を奪うものではない。そもそも、国家は外国人の入国及び在留の許否を自由に決定しうるものであり、特別の条約でもない限り外国人の入国及び在留を当然に許可すべき法的義務を負うものではない。これは、国際慣習法上確定された原則である。したがつて、令二一条三項の趣旨も当該外国人につき、仮に在留の必要性が認められたとしても、法務大臣は当然に在留期間の更新を許可すべき義務を負うものではない。法務大臣は、更新を認めるに当り、それを認めるに足りる相当の理由があるか否かにつき広範な見地から判断し得るのであつて、言いかえれば、それを許可するか否かを決定するについて自由な裁量権を有すると解すべきである。

(二) 原告らは本件各在留期間更新不許可処分が憲法三二条に違反し、著しく人道に反すると主張する。しかしながら、

(1) そもそも憲法三二条は裁判請求権を保障したものであつて、原告ゼー・エヌが本邦に在留しえなくなることは前記各訴訟の追行に多少の不便をもたらすことになるとしても、同原告の裁判請求権自体が侵奪されることになるわけではない。原告ゼー・エヌは前記各訴訟をいずれも訴訟代理人によつて追行しており、将来原告ゼー・エヌ本人尋問のために自ら出廷する必要が生じた場合には、令所定の手続により改めて本邦に在留入国することも不可能ではないのであるから、従前に引続いて本邦に在留する必要性は極めて少ない。もとより、本人が本邦に在留せずに前記各訴訟を追行することは多少の不便を伴うであろうが、それは原告らが日本国籍を有せず、かつ短期間の在留資格で入国したことによるやむをえない制約である。

(2) 原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは昭和三一年四月七日本邦から出国して以来一〇余年間も本邦にある財産を放置して、主にホンコンで事業を営み、生活をしていたものであり、右原告らの今回入国の目的は「裁判出頭のため」という一時的用務にすぎないもので、右目的に基づき同原告らの在留資格が認められたものであつたが、原告ゼー・エヌに必要な在留期間は既に充分に許容されてきたし、原告ラダ・ラニが当事者である訴訟事件は、現在係属していない。

(3) 原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニの子である原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバも既に退去強制令書を発付され、原告ゼー・エヌらと共に本邦から退去すべき状態にあるところ、同原告らは充分な現金預金を有しており本邦にある不動産を換金することも可能であるから、本邦から退去しても同原告らの生活には何らの不自由はない。

因みに、原告ゼー・エヌは昭和三一年四月三日神戸地方裁判所において、外国為替及び外国貿易管理法違反の罪により懲役六月執行猶予三年罰金三〇万円の判決をうけ、同判決は昭和三三年一月五日上告棄却により確定しており、また昭和三四年頃関税法、外国為替及び外国貿易管理法違反の容疑で愛知県警察本部の捜査をうけるや国外に逃亡し公訴時効が完成した経緯もある。

(4) 以上によれば、被告法務大臣がなした在留期間更新不許可処分には何ら憲法三二条違反のかどはなく、また、著しく人道に反するものでもないから、自由裁量権の範囲を逸脱濫用した違法があるということはできない。

3  原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニに対する被告法務大臣の昭和四九年七月二九日付各裁決の適法性

(一) 令四九条三項の法務大臣の裁決は、入国審査官が令二四条各号の一に該当すると認定し、特別審理官がその認定に誤りがないと判定したことについて、その判定に誤りがないか否かを判断するものである。そして、右原告ら二名の旅券に記載された在留期間は、いずれも昭和四八年九月二七日までであり、同原告らは、右期日を経過して本邦に在留していたのであるから、令二四条四号ロに該当する外国人である。したがつて、神戸入管入国審査官が右旨を認定し、神戸入管特別審理官が右認定に誤りがないとした判定には何ら誤りがないから、本件各裁決はいずれも適法である。

(二) 仮に、右原告らが、被告法務大臣において同原告らに対して令五〇条所定の在留を特別に許可しなかつたことをもつて違法であるとし、その処分の取消を求めているものであると解しても、次の理由により、それは失当である。

(1) 前記のとおり、そもそも外国人の入国及び在留の許可は、もつぱら当該国家の裁量により自由に決定しうるもので、特別の条約が存しない限り、外国人の入国、在留を許可する義務を負わないのが国際慣習法上の原則であつて、我国も右原則を前提として出入国管理令を制定し外国人の入国在留等の規制を行なつているのであるから令五〇条に基づいて特別に在留許可を与えるとしても、これは例外的措置であり、当該許可を与えるか否かは法務大臣の自由裁量に属するものである。しかも、右許可は異議申出人の個人的主観的事情のみならず、国際情勢内政、外交政策等の客観的事情をも考慮したうえ、行政庁の責任において決定されるべき恩恵的措置であるからその裁量の範囲は極めて広範なものである。

(2) 同原告らは、特別に在留許可を与えなかつたことが憲法三二条に違反し、著しく人道に反すると主張するものと解される。しかしながら、本件において特別に在留許可を与えなかつたことが何ら憲法三二条に違反せず、また、著しく人道に反するものでない事情については、既に前記2の(二)の(1)ないし(4)に述べたと同一である。

4  原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニに対する本件各退去強制令書発付処分の適法性

(一) 本件各退去強制令書発付処分は、いずれも前記の適法な被告法務大臣の本件各裁決に基づいて行なわれたものであるから適法である。

(二) なお、原告らは本件各退去強制令書発付処分が憲法三一条、三三条に違反すると主張するが、そもそも外国人の退去強制という行政目的は国際的にも肯認されており、憲法に違反するものでないから、この目的を達成するための具体的手続をいかに定めるかについては立法府の裁量に属し、法律の定めるところに委ねられていると解すべきであつて、右の範囲に属する事項については違憲の問題は生じない。したがつて、令四九条五項、五一条の規定も憲法三一条、三二条に違反せず、令の右規定に基づいてなされた本件退去強制令書発付処分はいずれも適法である。

六  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1は認める。

2  同2の(二)の(4)のうち、昭和三一年四月三日被告ら主張の判決をうけて確定した事実は認める。その余の同2の(二)について争う。なお、昭和三四年頃被告ら主張の容疑で捜査をうけて国外へ逃亡したことは否認する。被告ら主張の事件はアマルナス・セツトが犯したもので原告ゼー・エヌは無関係である。しかるに、アマルナス・セツトは在留期間更新をうけているのに、原告ゼー・エヌが本件在留期間更新不許可処分をうけるのは行政当局がアマルナス・セツトに加担し著しく公平を欠くものである。

第三証拠〈省略〉

理由

第一原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバに対する本案前の抗弁について

原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバは、いずれもイギリス国籍を有する外国人であり、原告プリテイは一九五一年(昭和二六年)一〇月一五日に、原告プリムラタは一九五五年(昭和三〇年)七月二六日にそれぞれ神戸市で、原告プラテイバは一九五九年(昭和三四年)四月一七日にホンコンで、いずれも原告ゼー・エヌを父とし原告ラダ・ラニを母として出生し、今回本邦に入国する前はホンコンに在住していたこと、原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバの三名は、いずれも大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から、令四条一項四号(観光客)に該当する者としての在留資格及び在留期間六〇日を認定されて上陸許可を受けたうえ、本邦に上陸したこと、昭和四五年一一月六日右原告ら三名は被告法務大臣に対して、いずれも在留期間の更新を申請し、その更新を受けたこと(その最終在留期限はいずれも昭和四五年一一月二七日)、昭和四五年一二月二一日神戸入管入国審査官は審査の結果、同原告らが令二四条四号ロに該当すると認定して、同原告らにその旨を通知したところ、同原告らは同所特別審理官に対して口頭審理を請求したこと、同所特別審理官は口頭審理の結果、右認定には誤りがないと判定して右原告ら三名にその旨を通知したが、同原告らは被告法務大臣に対して異議を申出たこと、昭和四六年四月一四日被告法務大臣は右異議の申出には理由がないと裁決し、その旨を被告神戸入管主任審査官に通知したこと、同年五月八日被告神戸入管主任審査官は右原告ら三名に対して右裁決の旨を通知すると共に、本件退去強制令書を発付し、神戸入管入国警備官はこれに基づいて同原告らを収容したが、同日、被告神戸入管主任審査官は右原告らの母である原告ラダ・ラニの請求により同原告らを仮放免したこと、同年一二月七日原告ゼー・エヌが本邦に上陸したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、右原告ら三名は右各裁決と右各退去強制令書発付処分の取消を求めて、当裁判所に対し、右各処分時である昭和四六年五月八日から二年余り経た昭和四八年一一月一五日に本件訴を提起していること(原告プリムラタ、同プラテイバについては親権者である原告ゼー・エヌ、同ラダが代理して提起)は本件記録上明らかである。

行政処分の取消訴訟を提起するには、原則として処分または裁決があつたことを知つた日から三か月以内でなければならず、右期間は不変期間とされ、また、処分または裁決の日から一年を経過したときは正当な理由がない限り右訴を提起することができないことは行政事件訴訟法一四条一項ないし三項に明定しているところである。ところで本件においては、当時右原告ら三名と共に生活していたのは同原告らの親権者である原告ラダ・ラニのみであつて、原告ラダ・ラニは日本語をよく理解できなかつたとしても、前記のとおり、被告神戸入管主任審査官が右原告ら三名に対し、被告法務大臣のなした本件各裁決のあつた旨を通知するとともに本件各退去強制令書を発付し、同原告らを収容したのは昭和四六年五月八日であつて、同日同原告らの親権者である母の原告ラダ・ラニにおいて、右原告ら三名に対する仮放免の請求をしているところからすると、右原告ら三名は、同日、右各裁決と右各退去強制令書発付処分のあつたことを知つたものというべく、それより三か月以上を経過した昭和四八年一一月一五日に提起された同原告らの本件訴は、行政事件訴訟法一四条一項所定の出訴期間を経過しているものというべきである。そして、仮に、前記原告ら三名が不変期間である右出訴期間を遵守しなかつたことについて、同原告らに責に帰すべからざる事由があつたとしても、原告ゼー・エヌ本人尋問の結果によれば、右原告ら三名の親権者である父の原告ゼー・エヌは、ホンコンにおいて、原告ラダ・ラニから右原告ら三名に対する本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分のあつたことを直ちに知らされていたことが認められるから、かつて永く本邦において事業を営み本邦の諸状況にも精通していた原告ゼー・エヌとしては、おそくとも同原告が本邦に入国した昭和四六年一二月七日頃には、前記原告ら三名に対する本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分の取消しを求める訴訟を提起しうる状態に至つたものというべく、したがつて、そのときまでには不変期間たる出訴期間を遵守することができなかつた事由は止んだものというべきであるから、それから一週間以上を経過した昭和四八年一一月一五日に提起された前記原告ら三名の本件訴はもとより訴訟行為の追完を許すべき場合にも該らないのである(民事訴訟法一五九条参照)。のみならず、原告ら三名の本件訴は、本件各裁決および本件各退去強制令書発付処分のなされた日から一年以上経過して提起されたものであることは前記のとおりであつて、行政事件訴訟法一四条三項所定の出訴期間も徒過しているのである。この点について、原告らは、同項ただし書の正当な理由があると主張するのであるが、原告ら主張の事情は到底同項ただし書の正当な理由になり得ないし、仮になり得るとしても、おそくとも、原告ゼー・エヌが本邦に入国した昭和四六年一二月七日頃には、原告ら三名の本件訴が提起し得る状態に至つたものというべきこと前記のとおりであるから、原告らの右主張は採用できない。したがつて、原告ら三名の本件訴は、いずれの点からみても、行政事件訴訟法一四条一項および三項所定の出訴期間を経過しているものであるから、不適法なものとしていずれも却下を免れない。

第二原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニについて

一  本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分の存在

原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニはいずれもイギリス人であつて、原告ゼー・エヌは昭和四六年一二月七日、原告ラダ・ラニは昭和四七年五月一二日いずれも入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証をうけて本邦に入国し、大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を原告ゼー・エヌにおいて六〇日、原告ラダにおいて一八〇日とそれぞれ決定されて上陸許可を受けたうえ本邦に上陸したこと、その後右原告ら二名は被告法務大臣から在留期間更新を許可されてきたが(その最終在留期限はいずれも昭和四八年九月二七日)、同原告らが昭和四八年九月一七日被告法務大臣に対し各在留期間の更新を申請したところ、被告法務大臣は昭和四八年一〇月二六日付で同原告らに対し在留期間の更新をいずれも不許可とする旨の処分をしたこと、更に神戸入管入国審査官は昭和四九年四月二六日右原告ら二名が令二四条四号ロに該当すると認定したこと、同原告らは神戸入管特別審理官に対して口頭審理を請求したこと、右特別審理官は口頭審理の結果右認定には誤りがないと判定して右原告ら二名にその旨通知したところ、同原告らは被告法務大臣に対して異議を申出たこと、被告法務大臣は昭和四九年七月二九日右異議の申出には理由がないといずれも棄却する旨の本件各裁決をし、その旨を被告神戸入管主任審査官に通知したこと、被告神戸入管主任審査官は同年八月一二日右原告ら二名に対し右各裁決の旨を通知すると共に本件各退去強制令書を発付したこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分に至る経緯

請求原因1の(二)、(三)、同2の(一)(イ)のうち、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニが昭和三一年四月七日出国したこと、本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分当時並びに現在原告ら主張の各訴訟(但し、本件各裁決及び各処分当時の(4)の訴訟を除く。)が係属していること、現在原告ラダ・ラニが当事者である訴訟は係属していないことは、いずれも当事者間に争いがない。右の争いのない事実に、〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

原告ゼー・エヌは、遅くとも昭和一九年頃には本邦に入国しており、エー・エヌ・ジエーン、アマルナス・セツトと共にカレー粉製造販売の事業を営んでいたが、昭和二三年頃から同人らと共に、本邦に日印貿易株式会社を設立し、インドに事務所を設けて本邦からインドへ向け雑貨を輸出する貿易事業を開始した。その後、広く真珠等の輸出も手掛け、それと共に原告ゼー・エヌらは私設銀行業務を行なうようになつた。更に、昭和二九年頃にはホンコンに、昭和三一年頃にはシンガポールにも事務所を設け、各事務所において各国の為替相場の調査を行なつて、大規模に私設銀行業務を拡大していつた。原告ゼー・エヌらは、本邦において

無税品である雲母及び工業用ダイヤの輸入に籍口して、その代金を水増して輸入関係書類を作成し、外国為替公認銀行の承認を受け、税関に対して虚偽申告、虚偽証明をして差額分をホンコン、シンガポール等に送金し、同所でこれを資金にして為替相場取引をなすという外国貿易管理法、関税法違反を犯しながら巨大な富を築いた。昭和三二年一〇月頃から昭和三四年二月頃までに行なわれた分の犯罪事実については、共同事業者であつて共犯者でもあるアマルナス・セツトは刑事処分を受けたが、原告ゼー・エヌは、右犯罪事実が発覚し当局が捜査を開始した当時には、既に本邦から出国してホンコンに滞在中であつたことから、取調べを受けることなく、その後本邦に入国するも右事実につき起訴されないまま、現在は既に公訴時効が完成している。

その他に、原告ゼー・エヌは、外国為替及び外国貿易管理法違反の罪により、昭和三一年四月三日神戸地方裁判所において懲役六月執行猶予三年罰金三〇万円(仮納付)の判決を受けて、昭和三三年一月五日上告棄却により確定している。かくして、原告ゼー・エヌは、右貿易事業により富を築いて、昭和二二年七月一八日大阪市東区道修町一丁目六番一宅地二八三・三三平方メートル、同地上の鉄筋コンクリート造陸屋根地下三階建店舗(インドビルと称す。)及び付属建物等を買い受け、昭和二二年四月一〇日神戸市生田区山本通三丁目一番の一宅地一七六・五六平方メートル、同地上の木造瓦葺二階建居宅を買い受け、原告ラダ・ラニは同市同区北野町四丁目一〇七番の二宅地四三二・八五平方メートルを買い受けて所有するに至つた。本邦在留中に原告ゼー・エヌは、妻の原告ラダ・ラニとの間に原告プリテイ、原告プリムラタの二子をもうけ、右原告らは昭和三一年四月七日いずれも本邦から出国してホンコンに滞在していた。

ところが、原告ゼー・エヌの共同事業者であるアマルナス・セツトが、昭和四二年九月一日原告ゼー・エヌを相手どつて大阪地方裁判所に対し原告ゼー・エヌ所有の前記インドビル及びその土地について、同じく昭和四二年一二月頃原告ラダ・ラニを相手どつて神戸地方裁判所に対し原告ラダ・ラニ所有の前記北野町所在の宅地について、いずれもアマルナス・セツトに三分の一の持分権があるとして、その確認等を求める訴を提起した。そこで、ホンコンにおいて右訴状を受けとつた原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニは、右各訴訟を追行し、かつ右財産を保全するために本邦に入国することを決意し、右決意に基づき、原告ラダ・ラニは昭和四三年四月三日在留資格四一-一-四の許可を受け、在留期間六〇日を付与されて本邦に上陸し、昭和四五年三月九日韓国へ出国したが、同月一二日再び本邦に入国し、さらに同年五月一一日韓国へ出国して、翌一二日改めて入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受けて再度本邦に入国し、大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を一八〇日と決定されて本邦に上陸した。原告ゼー・エヌは、昭和四三年八月一八日在留資格四-一-一六-三の許可を受け、在留期間一八〇日を付与されて本邦に上陸し、その後在留期間の更新を受け、昭和四五年三月二八日ホンコンへ出国し、昭和四六年一二月七日入国目的を「裁判所出頭のため」とする特定査証を受けて再度本邦に入国し、大阪入国管理事務所伊丹空港出張所入国審査官から令四条一項一六号、省令一項三号に該当する者としての在留資格を認定され、在留期間を六〇日と決定されて本邦に上陸した。入国後、原告ゼー・エヌは原告ラダ・ラニ、同プリテイ、同プリムラタ及びホンコンにおいて出生した原告プラテイバと共に神戸市に居住し、本邦に生活の本拠を定め、原告ゼー・エヌは相変わらず事業をしていたが、現在は心臓の疾患のため職につかず、原告らは財産を処分して預金した利子と家賃収入で生活している。その後、原告ゼー・エヌにおいて一〇回にわたり、原告ラダ・ラニにおいて一二回にわたり在留期間の更新を受けてきたが、右原告ら二名が昭和四八年九月一七日被告法務大臣に対し各在留期間の更新を申請したところ、被告法務大臣は同年一〇月二六日同原告らに対し各在留期間更新をいずれも不許可とした。神戸入管入国審査官は昭和四九年四月二六日同所入国警備官から右原告ら二名の引渡を受けて審査した結果、同原告らが令二四条四号ロに該当すると認定して同原告らにその旨通知したところ、同原告らは同所特別審理官に対して口頭審理を請求した。同所特別審理官は同年六月六日口頭審理の結果、右認定には誤りがない旨判定して右原告ら二名にその旨通知したところ、同原告らは被告法務大臣に対して異議を申出た。被告法務大臣は同年七月二九日右異議の申出には理由がないと裁決し、その旨を被告神戸入管主任審査官に通知し、被告神戸入管主任審査官は同年八月一二日原告ら二名に対して右裁決を通知すると共に、各退去強制令書を発付し、神戸入管入国警備官はこれに基づいて同原告らを収容したが、被告神戸入管主任審査官は、原告ゼー・エヌの請求により同原告らを仮放免した。本件各裁決及び各処分当時、右原告ら二名を当事者とする訴訟は次のとおり係属していた。

(1)  大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第五、一九四号共有権確認請求事件

原告 アマルナス・セツト

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

(2)  大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第一、一四六号保存登記抹消登記手続請求事件

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

被告 アマナツ・セツト(アマルナス・セツトと同一人)

(3)  神戸地方裁判所昭和四四年(ワ)第四七四号持分払戻金請求事件

原告 アマルナツト・セツト(アマルナス・セツトと同一人)

被告 ゼー・エヌ・ジヤスワル他一名

(4)  大阪高等裁判所昭和四八年(ネ)第九三九号報酬支払請求控訴事件

控訴人 ゼー・エヌ・ジヤスワル

同  ラダ・ラニ・ジヤスワル

被控訴人 鈴木 透

原告ラダ・ラニを当事者とする前記(4)の訴訟は終了して、他には係属中の訴訟はない。原告ゼー・エヌを当事者とする訴訟は現在前記(1)ないし(3)の訴訟ががいまだ係属しており、他にも次の訴訟が係属している。

大阪地方裁判所昭和四八年(ワ)第五、七九二号株主たる地位確認請求事件

原告 ゼー・エヌ・ジヤスワル

同 エー・エス・ジエーン

被告 日印貿易株式会社

前記原告ら二名は右各訴訟をいずれも訴訟代理人によつて追行しており、原告ゼー・エヌはほとんど裁判所の口頭弁論期日には出頭していないが、後日当事者として尋問される予定である。

以上の事実が認められる。前掲各証拠のうち、以上の認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしたやすく信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  本件各在留期間更新不許可処分について

以上の事実関係に基づいて本件各在留期間更新不許可処分の違法事由の有無について判断する。

そもそも令二一条三項の在留期間の更新の制度は、本邦に在留する外国人に対し、所定の在留期間の満了した場合に当然に喪失すべき在留資格を存続させる制度であるから、同条の趣旨は、外国人に対して更新を受ける権利を付与し、かつ、法務大臣に対して外国人に在留の必要性が認められたならば直ちに更新を許可すべき義務を負わしめたものと解すべきではない。外国人に在留の必要性が認められても、更に更新を許可すべき「相当の理由」の存否につき、当該外国人の経歴、在留目的、在留期間更新の必要性の程度、国際情勢等諸般の事情を広範な見地から総合的に検討して、更新を許可するか否かを決定する高度の自由裁量権を法務大臣に付与したものと解すべきである。このことは外国人の入国の許否、在留資格の付与等が本来その国家の自由に決しうることに由来するものである。したがつて、法務大臣がその自由裁量権の範囲を逸脱、濫用した場合に、初めて在留期間更新不許可処分が違法となり取消されるものと解すべきである。

ところで、原告らは、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニを当事者とする前記各訴訟が係属中であつて、いずれも訴訟代理人によつて追行されているものの、右訴訟事件は複雑で古い事実に関するものであるから、常に訴訟代理人と連絡をとらねば訴訟の追行が困難であり、また、他の訴訟事件の証人として昭和四八年一二月五日、昭和四九年二月八日に裁判所から呼出されていること、また、原告らの生活の本拠は本邦にあつて、入国以来善良な市民として平穏な生活を送つていることなどの事情を挙げて、在留更新を許可すべきであるとし、本件各在留期間更新不許可処分は憲法三二条に反し、著しく人道に反するものであるから、被告法務大臣の自由裁量権の範囲を逸脱、濫用するものであると主張する。

しかし、前記認定のとおり、本邦において係属中の原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニを当事者とする前記各訴訟は、いずれも訴訟代理人によつて追行されており、原告ゼー・エヌが当事者として尋問される予定であることは明らかであるが、そもそも憲法三二条の規定は、私人の裁判請求権を保障したものであつて、民事事件及び行政事件については、権利又は利益を不法に侵害された私人が裁判所に訴訟を提起して救済を求めた場合に、裁判所が裁判を拒絶することができない旨を規定したものである。右原告ら二名が本件各在留期間更新不許可処分によつて本邦に在留しえなくなることは、前記各訴訟の追行に事実上不便をきたし、何らかの困難を生ずるであろうことも推察できないではないが、だからといつて、直ちに同原告らの裁判請求権自体が侵奪されるということはできないのである。本件各在留期間更新不許可処分が憲法三二条に反するとの原告らの主張はもとより採用することはできない。殊に本件においては、右原告ら二名は前記各訴訟をいずれも訴訟代理人によつて追行しているのであつて、同原告らが外国にあつても、その連絡指示により右訴訟の追行は可能であり、また、同原告らは一〇回以上にわたつて在留期間の更新を受け、既に右各訴訟の打合せに十分な時間も与えられているのである。右原告ら二名が本人として尋問を受ける必要があるのであれば、改めて令所定の手続により本邦に入国することも必ずしも不可能ではないし、同原告らが第三者の事件の証人として呼出を受けているとしても、それは同原告らの利益とは何らのかかわりもないのである。原告らの主張するところは、いずれも在留の必要性の根拠となすことをえないというべきである。そして、前記原告ら二名の生活の本拠は本邦にあつて、本邦以外には資産を有しないとはいえ、前記のとおり、同原告らは相当額の預金と不動産を有しているのであるから、右不動産を売却して得た金員により外国においても生活することが困難ではなく、今回本邦に入国する以前はホンコンを生活の本拠と定めており、原告ゼー・エヌは数か国にまたがつて広く貿易事業を行なつていたのであるから、外国に退去を強制されても、そのため同原告らの生活に著しい困難が生ずるということもできない。なお、原告らは、訴訟の相手方であるアマルナス・セツトに行政当局が加担して公平を欠き、アマルナス・セツトに比し、右原告ら二名に特に不利益な取扱いをしていると主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであるから、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニが本件各在留期間更新不許可処分により本邦に在留できなくなることによつて、同原告らの本邦における前記訴訟の追行等を含む活動にある程度の支障をきたすであろうことは推察するに難くないが、前記認定の程度の不便は「裁判所出頭のため」という一時的な入国目的に基づく在留資格により入国した同原告らにおいて、十分に予測しえた筈のものであり、また、そもそも長期の在留資格を有しない同原告らが本邦において不動産を所有したり、生活の本拠を構えたことにより当然に生じたものといい得るから、同原告らにおいてこれを甘受しなければならないとしても、やむをえないというべきである。前記事由をもつて、本件在留期間更新不許可処分が人道に反し、正義にもとる結果を招くとはいえず、被告法務大臣において、その自由裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があるということはできないから、被告法務大臣がなした本件各在留期間更新不許可処分には何らの瑕疵がないというべきである。

四  本件各裁決について

令四七条ないし四九条によれば、法務大臣が異議の申出を理由がないとして棄却する裁決は、特別審理官によつて誤りがないと判定されたことによつて維持された入国審査官の認定を原処分として、その当否を審査し、これを維持する処分であると解せられるが、同時に法務大臣が令五〇条による在留特別許可をしない旨の処分でもあると解するのが相当である。したがつて、法務大臣が異議の申出を理由がないとして棄却した裁決は入国審査官の認定の当否の判断に関する部分については、原処分の違法を理由として、その取消を求めることは許されないが(行政事件訴訟法一〇条二項参照)、令五〇条による在留特別許可をしなかつた法務大臣の判断に違法があるときは、それを事由として、法務大臣が異議の申出を理由がないとして棄却した裁決自体が違法であるとして、その取消しを求め得るものと解すべきである。ところで法務大臣が令五〇条に基づいてなす在留特別許可は、退去強制事由がある者に対して例外的に付与する恩恵的な措置があつて、令は在留特別許可を与えるか否かの判断については法務大臣に広範な自由裁量を許容していると解すべきであるから、法務大臣が令五〇条による在留特別許可をしなかつた判断が著しく人道に反し、正義にもとる等の場合にのみ、裁量権の範囲を逸脱、濫用したものとして違法となるのであつて、この場合には、前記のとおり、法務大臣が異議の申出を理由がないとして棄却した裁決を違法として取消しうるのである。本件においては、原告らが被告法務大臣の本件各裁決が違法であると主張するところは、結局被告法務大臣が前記原告ら二名に対し令五〇条による在留特別許可をしなかつた判断に裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があると主張し、本件各裁決が違法であるとして、その取消を求める趣旨と解されるが、その主張する違法事由は、前記在留期間更新不許可処分について主張する違法事由と全く同一であるので、前記在留期間更新不許可処分の違法事由について判断したと同様の理由により、被告法務大臣が前記原告ら二名に対し令五〇条による在留特別許可をしなかつた判断には、その裁量権の範囲を逸脱、濫用した違法があるということはできず、したがつて、被告法務大臣が原告ら二名に対してなした本件各裁決には何らの取消すべき違法がないというべきである。

五  本件各退去強制令書発付処分について

原告らは、前記原告ら二名が令四九条五項、五一条に基づき被告神戸入管主任審査官から発付された退去強制令書により収容されたが、右収容が身体の自由を奪うものである点では刑事手続における逮捕勾留と実質的に差異はないから、右収容の権限を裁判官でなく主任審査官に付与している令四九条五項、五一条の規定は、憲法三三条に違反し、かつ同法三一条にも違反すると主張する。そもそも、憲法三三条は被疑者の身体の自由を拘束する逮捕について、捜査機関の専断的な判断による不当な逮捕を防止するために司法官憲の発する令状によらなければ逮捕されないという令状主義を規定したものであつて、直接的には刑事手続に関する規定である。ところで、令に基づく収容のうち、退去強制令書による収容は、外国人について退去強制事由の存在することが認められた後、送還先に退去を強制するために暫時身柄を確保する手続であり、その被収容者の処遇については令六一条の七に基づいて、右目的の範囲内で特段の配慮がなされているものである。したがつて、右収容は外国人の退去強制という行政目的を達成するために定められた行政手続であつて、その性質上、刑罰を科する刑事手続について定めた憲法三三条の令状主義の枠外にあるというべく、同条違反の問題は直ちに生じるものではない。もつとも、令に基づく収容手続は行政手続ともいえども、人身の自由に制限を課するのであるから、憲法三三条の趣旨は右手続においても十分に尊重されなければならないと解されるが、令は、入国警備官の違反調査、入国審査官の審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出という四段階の行政手続を経たうえで、なおも退去強制事由があると認定されたときに、はじめて、退去強制令書が発付されて本邦からの退去を強制されるという慎重な手続を定めているのであり、極力不当な退去強制がなされるのを防止するように配慮されているのである。そして、最終的には退去強制令書発付処分の当否を裁判所において争いうるのであるから、身体の自由の不当な拘束を防止しようとする憲法三三条の目的とするところは、令に基づく収容手続においても、それが司法官憲ではない主任審査官に収容しうる権限を付与しているといえども、実質的には充たされているというべきである。したがつて、実質的にも令四九条五項、五一条が憲法三三条に違反するものとはいいがたく、また、適正手続の保障をしている憲法三一条にも違反しないことはもちろんである。本件各退去強制令書発付処分には、原告主張のような違法はなく、また、右各処分はいずれも被告法務大臣の前記適法な本件各裁決に基づいて行なわれたものであるから、右各裁決の瑕疵を承継するものとして違法であるとする原告らの主張も採用の限りでない。

第三結論

以上によれば、原告プリテイ、同プリムラタ、同プラテイバの本件各訴はいずれも訴訟要件を欠く不適法なものとして却下すべきであり、原告ゼー・エヌ、同ラダ・ラニの被告法務大臣に対する本件各在留期間更新不許可処分と本件各裁決の取消を求める本件請求ならびに被告神戸入管主任審査官に対する本件各退去強制令書の発付処分の取消を求める本訴各請求は、いずれも理由がないものとして棄却すべきであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井いく朗 大和陽一郎 上原理子)

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